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中遠昔ばなし

第130話   (きつねにだまされたはなし ひがしやまのよきちさん)
狐に騙された話 〜東山の与吉さん(袋井市)

狐に騙された話 〜東山の与吉さん(袋井市)

 むかしむかし、東山村に与吉さんというお百姓さんが住んで居りました。与吉さんは少しの田んぼを耕しており、時々は同笠の浜へ漁師の手つだいにいきました。
 東山村は、同笠の浜で呼びあげる見張りの漁師の声が聞こえるぐらいの距離にあったのでした。
 十月の暖かいある日、午后になって鰯の大群がやって来ました。見張番がさかんに漁師を呼びあげて居ります。与吉さんは今日も漁の手つだいに行く為家を出ました。
 同笠の村の手前に、「二本木」という塚がありました。道はその塚の横を通っているのです。「二本木」には雑木が繁っており、大きな松の木が二本高くそびえていました。村の人々はそこに狐が住んでいると評判の処でした。
 与吉さんは塚の方を右手に見ながら通りすぎたのですが、やっぱり一匹の狐が日向ぼっこをしておりました。
 いつもならば立止まってからかったり、おどしたりするのですが、今日は急いで居りましたのでそのまま同笠の浜に向かいました。
 浜ではいつもの様に舟で一廻り掛けて来た網をもう曵き始めていました。網の太い綱に、腰に巻いた細い綱をひっかけては後ろ向きに曵くのです。何人もの漁師が砂浜の中程まで曵くと細い綱をはずし大急ぎで波打際へとんでいっては後ろ向きで曵くのです。
 与吉さんも早速その仲間に入ったのでした。大漁の時は漁師達は他所の村の人々でも手つだえば誰にでも鰯を呉れるのでした。
 その時も鰯は大漁でした。与吉さんは腰籠に一杯の鰯を貰って帰る事にしました。途中で同笠の居酒屋で好きなお酒を呑んでおりましたので、短い秋の日はもう昏れかけておりました。
 与吉さんは「狐にだまされた時はタバコを吸うとよい」と聞いておりました。火の嫌いな狐はタバコの火を見ると何処となく消えてしまうという事でした。「二本木」の塚は同笠の北のはずれにありました。「二本木」を過ぎるとしばらくは田んぼばかりの曲った道が続きました。
 ふと気が付くと与吉さんの前を絣の着物を着た女の人が歩いているのです。しばらく後について行くと、女の人の前を一匹の狐が進んでいるのがわかりました。
 狐が尾を右に振ると女の人は右の方に、左に曲げると左の方へとヨロヨロと進んでいるのです。
 与吉さんは女の人が狐にだまされているのだと気が付きました。これは面白い、何処に行くか見届けてやろうと思い始めました。与吉さんは腰の鰯籠に時々誰かが手を掛けるのを感じて居りましたが、女の人を追うのに夢中でした。
 「狐が化けた時は暗い筈なのに着物の柄が良く見えるから気を付けよ」と聞いて居りました。今夜の女の人は絣がはっきり見えていたのです。でも与吉さんは前を行く狐の所作に気を取られてしまいました。
 やがて白い川が見えて来ました。同笠と東山の間には川など無かったのです。狐と女の人はズンズンその川に入って行きました。与吉さんも後に付いて段々着物を膝までまくり、次第に腰までまくり上げて後に続きました。
 川は深く何やら足に巻きつきます。与吉さんは何度も「深いな、深いな」と声を出し乍ら渡って行きました。タバコをつける事などすっかり忘れていました。腰の籠はすっかり軽くなっておりました。
 疲れ果てた与吉さんはとうとう川の中に倒れてしまいました。不思議に水は冷たくありませんでした。川底は白く軟かでした。
 あくる朝、与吉さんは東山のすぐ近くの「そば畑」で目を醒ましたのでした。腰にあるのは空になった鰯籠でした。
 与吉さんは狐にだまされたのでした。タバコを吸わなかった事も、暗やみに女の人の絣模様がハッキリ見えた事も与吉さんは思い出しました。
 白く満開の「そば畑」がくたくたに踏まれているのを眺めて与吉さんは苦笑いをしていました。

(「ふるさとの伝承」より)

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