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中遠昔ばなし

第111話   (といぶちのくも)
とい淵のくも(森町)

とい淵のくも(森町)

 三倉の大久保(おおくぼ)に、源助(げんすけ)というたいそう魚つりの上手な人が住んでいました。源助は、ひまさえあれば近くの川へ行って、はや、やまめ、うぐい、うなぎ、あゆなどの魚をとることを楽しみにしていました。
 ある日のことでした。朝早くからつりに出ましたが、どうしたことか、その日にかぎって、魚は一匹もつれませんでした。さすがの名人も、いらいらしながら、場所をかえては、つり糸をたれるのですが、いっこうにかかるけはいがありませんでした。昼めしを食べてからは、つり場をしだいに川上にうつし、いつの間にか、魔物(まもの)が住んでいるといっておそれられている「とい淵」まできてしまいました。
 この淵は、底の見えないほどの深さで、両岸には大木が生いしげり、昼でもうす暗い、見るからにきみの悪い所でした。淵の中をのぞいて見ると、人のこわさを知らない大きな魚のむれが、ゆうゆうと泳ぎ回っていました。このようすを見て、朝から一匹もつれなかったくやしさでいっぱいの源助は、日ごろ聞かされていた淵のおそろしさも忘れて、にこにこしながら、つり糸をたれました。すると、大きな魚がすぐにかかりました。源助は、大よろこびでした。魚は、はりを入れるたびにかかってきました。
 夕方近くなると、魚はびくにいっぱいになりました。日もくれかけたし、魚もたくさんつれたので、ぼつぼつ帰ろうと思い、つり道具をかたづけてから、川岸に腰をおろして、一休みしました。と、そのときでした。足の親指がもぞもぞして、くすぐったく感じたので何げなく目をやると、小さなくもが一生けん命糸を巻きつけておりました。源助は、根がやさしい男でしたので、そのくもを払(はら)い落したり殺したりしないで、じっと見ておりますと、やがて糸を引きながら淵の方へおりて行き、見えなくなってしまいました。へんだなと思いましたが、糸のはしを指に巻きつけたまま巣を作ったのでは、かわいそうだと思って、糸を足からそっとはずし、そばにあった大木の根もとにくっつけてやりました。
 ゆっくり休んだので、帰ろうとして、立ちあがった時でした。急に地面がグラグラっとゆれたように感じたので、思わずあたりを見まわしました。おどろいたことに、風もないのに、くもの糸をつけた大木だけがザワザワと大きくゆれ動いていました。そのゆれかたは、しだいに大きくなり、かたむき、やがて根こそぎひきぬかれて、大地震の時のような地なりとともに、淵の中にすいこまれるように落ちていきました。おそろしい力です。もし、あの糸をつけたままいたら、自分が引きずりこまれていたにちがいないと思うと、生きたここちもなく、おそろしさのあまり、つりあげた魚もつりざおもほうり出して、まっさおになって逃げ帰りました。
 後で、この話を聞いた村の人たちは、前にもましてとい淵をおそれるようになり、近づく人はなくなったということです。

(「森町ふるさとの民話」より)

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