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第8話 | (ゆやごぜん) 熊野御前(豊田町) |
平安の頃、池田の宿に、花のように美しく優しい熊野という娘がおりました。見付の国府に赴任していた平宗盛に見初められた熊野は、やがて都へ上って行きました。 宗盛と幸せな日々を送っていた熊野のもとに、ある日、母の病の報せが届きます。池田へ帰りたいという熊野の願いを、しかし宗盛は愛するあまり放しがたく、聞き入れてくれません。 春、桜見物の席で、熊野は、「いかにせん、都の春も惜しけれど、なれしあずまの花やちるらん」(都も離れがたいが、故郷で命を散らそうとしている母が心配です)と詠み、その心に打たれた宗盛はついに別れを決心するのでした。 母娘は、再会を喜びましたが、母の命は長くありませんでした。まもなく愛する宗盛の戦死と平家滅亡を聞いた熊野は、尼となり静かに生涯を終えました。 熊野が祈りを捧げた庵のあとの行興寺の庭には今も母のために熊野が植えた藤の花が、毎年長い花房をつけています。 (豊田町発行「熊野御前」より) |
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